1月3日:書架より~『心理学の歴史』 

1月3日(土):書架より~『心理学の歴史』 

 

 今月は一般心理学を少し復習しようかと思う。その一環で本書を紐解いた。文庫クセジュの『心理学の歴史』(モーリス・ルシュラン著)である。まずは本文を読んでいこう。 

 

(第1章 実験心理学) 

 実験という形容詞は哲学的心理学との区別を表わすものであるが、実験は実験心理学だけのものではなく、その他の心理学分野でも利用されるものである。実験は生理学の分野で用いられ始め、生理学には心理学と隣接する研究分野がある。19世紀の神経生理学の進歩は現代の心理学の土台となるところを形成した。 

 ウェーバーとフェヒナーは測定の可能性を開き、ヘルムホルツは感覚領域での系統的研究を作る。それはブントの心理学に引き継がれたが、ブントの功績は、その心理学理論よりも、方法論にある。 

 感覚・知覚領域で出来上がった実験方法はより高級過程の研究に用いられるようになった。エビングハウスは記憶にそれを用いた。ヴェルツブルグ学派はブントの内観を継承した。ビネーは知能の問題に、ゴルトンは心象の問題を扱ったが、方法としては内観が取り入れられていた。しかし、内観法には弱点があり、それの克服がパブロフの実験であった。その後、動物心理学からも対象を行動にすべきという動きが見られ、ワトソンに至って行動主義として結実する。 

 実験的性格を有する心理学は、高級過程と要素的過程の中間領域に留まっていることが多いようである。実験的方法も、統計を含めて、技術的な改良がなされている。実験的心理学の成果は、人間工学や産業方面など、さまざまな分野で応用されるようになっている。 

 

(第2章 動物心理学) 

 動物心理学は、動物学者の基盤と哲学者の基盤とを受け継いでいる。動物学者たちは擬人論的態度を放棄し、心理学と共通の方法で研究するようになった。人間と動物との違いは学習の仕方にあるとしたソーンダイク、並びにそれを否定し、動物と人間との学習の仕方は連続的であることを証明したゲシュタルト学派。心理学が動物研究することの意義。動物で得た結果は多くの場合人間に応用することが可能である。動物に関する説明を人間に対して応用する方が「経済的」である。なお、ここでは意識は、内観とともに、完全に放棄されている。 

 動物心理学はイギリスで起こった。ロマネスの理論は逸話であったが、モーガンは科学的方法を取り入れ、ロエブに引き継がれる。その後、ソーンダイク、ヤーキスらを経て、ローレンツに至る。動物心理学の発展は主にアメリカで達成された。 

 

(第3章 差異心理学) 

 個人差に関する研究はそれ以前からあったが、差異心理学を打ち立てたのはシュテルンである。実験心理学は一般心理学であり、差異心理学ではなかった。差異心理学に取り組んだのはゴルトンであり、キャッテルであった。ゴルトンの方法であった相関係数は後に因子分析へと発展し、差異心理学は統計心理学へとつながっていく。 

 個人差に関する理論は遺伝学説と結びつく。その差異が遺伝によるものか環境によるものかに関する研究であり、双生児研究が方法として用いられた。 

 差異心理学の応用はテストの分野でも見られた。その先鞭をつけたのはキャッテルであり、その後ビネーによる知能テストで普及する。また、職業指導に差異心理学を応用したのはクラパレードであった。 

 

(第4章 病態心理学と臨床法) 

 心理学は個人の行動へと目を向けさせたが、それは同時に精神病者の行動への関心も高め、病態心理学が生まれる。フランスでその先鞭をつけたのはリボーであった。ジャネとデュマはリボーの弟子であった。またウイーンからはフロイトが現れる。フロイトもジャネも、さらにはビネーも、シャルコーの催眠術講義を受けている。ジャネとフロイトは臨床の方面へ、ビネーは知能テストの方面に進む。知能テストの普及に一役買ったのは臨床家たちであった。臨床心理学は治療とテストの二本柱を有するが、両者は統合されつつある。また、両者に統計的手法が用いられるようになっている。統計的方法によって、臨床家の直感だけに頼らなくなってきている。 

 本書は実験に立脚しているが、臨床心理学はケーススタディ、症例研究などに関して心理学者の目を開かせたところがあるように思う。また、シャルコーのサルペトリエール学派にしろナンシー学派にしろ、催眠術の講義はそれ自体実験の様相を帯びていたと言えるかと思う。 

 

(第5章 児童心理学) 

 合理主義と経験主義との論争にすでに児童心理学のテーマが含まれている。進化論的研究にとっても児童の発達は興味の対象であった。心理学者は児童に関心を持ち始め、やがてビネーの知能検査やフロイトの性理論などが生まれる。 

 児童の発達への関心は19世紀中ごろから起きている。それは学者が自分の子を観察するという形で始まった。縦断的な研究である。後にビネーの知能検査など横断的な研究も生まれる。ゲゼルは縦断的研究と横断的研究を総合した方法で研究した。児童研究では質問紙法も採用され、それに関しては賛否両論が湧き上がったが、因子分析を活用することで活路を開いた。 

 児童心理学における困難は観察から説明へ至ることである。ピアジェは観察を説明に代えたとワロンは言う。ピアジェは発達を連続する過程と捉えたが、ワロンは発達は非連続的であると説く。両者の対立は、より広範囲にわたる論争のあった二種の説明概念である。 

 胎児を研究する胎生学も心理学と結合していく。個体の進化と種の進化の平行性が認められ、そこでは反復がなされていく。 

 

(第6章 社会心理学) 

 社会心理学の主眼は個人対集団の相互作用の研究にあるといえる。社会心理学という用語は19世紀末ごろから用いられ始めたが、現代の研究とつながりがあるのは1925年以降のものである。社会心理学を回避する3つの理由を著者は挙げている。社会心理学の方法としてはモデルの模倣がある。また、社会心理学はその他の分野、知覚心理学、ゲシュタルト心理学、数学・力学などから、さまざまな概念を借用する。すなわち、態度、役割、コミュニケーションといった概念である。 

 

 以上の6章から成る小著である。分量が少ないが故に著者は内容をかなり絞っただろうと思うのだけれど、いささか他の「心理学史」の本とは趣を異にしている。差異心理学(通常は臨床心理学に包含される)や動物心理学で一章が設けられているところなど、ちょっとユニークな一冊になっている。 

 心理学(他にも哲学や精神分析学などでも同じだけど)は歴史的に勉強するのが一番いいように思う。どうして以前の研究は廃れたのか、どうしてそのような研究が後に生まれたのかなど、その変遷を通して勉強する方が理解しやすい。 

 著者は序文の中で述べている。「人間の問題は本質的に総合の問題であり、人間に関する科学全体の共同研究によってのみ解決されるとは、満場一致で認められているにもかかわらず、一方、心理学の統一性はいまや消滅しつつあるのではないか」と。僕も同感である。 

 心理学の統一性が失われるのは、心理学があまりにも細分化しすぎたためでもある、と僕は考えている。それを統合するには、それが細分化していった歴史を辿ることが、少なくとも一つの、有益な方法ではないかと僕は思う次第である。 

 

<テキスト> 

『心理学の歴史』(モーリス・ルシュラン著) 

豊田三郎 訳 

文庫クセジュ(白水社) 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

 

 

 

 

 

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