2月3日(火):唯我独断的読書評~『世紀の悪党ども』(1)
リーダーズダイジェストから出版された『世紀の悪党ども』を読む。長年、僕の中で好きな本の一冊だったものだ。そろそろ本書ともお別れしてもいいかなと思い、最後に通読しておこうと決めた。
本書には40もの「悪党」たちの物語が収録されている。8篇ずつ記載していこうと思う。
さっそく、第1話から第8話までを読んでいこう。
1「史上最大の列車強盗」(ピート・ハミル)
1963年8月8日午前3時。現金輸送中の郵便列車はロンドンに向かって走っている。その時、イギリス最大の強盗事件として有名な事件が発生する。
この犯罪はある裕福な人物が計画したものだった。その人物は直接犯罪に手を染めるわけではなく、彼は自分の立てた計画が成功するかどうかにしか興味を持っていないような人物であった。その計画は暗黒街の面々に伝えられたが、それを実行する者はいなかった。
首謀者のブルース・レイノルズは刑務所でこの計画を知る。出所するや仲間を集める。ブルースとダグラス・グディ、ロナルド・エドワーズ、チャールズ・ウィルソンの4人が幹部となった。彼らは計画遂行に必要な手下を集める。綿密に準備し、訓練し、細心の注意を払って計画を練っていった。見事なチームワークによる犯行がこうして実行されたのだ。
彼らは日本円で25億円もの現金を盗んだ。そのうち20億円以上が回収されていないという。彼らのすごいところは、幹部が逮捕されて刑務所に入れられても、部下が脱獄させるのである。二人が脱獄に成功している。鉄壁なチームワークだ。
見事な犯罪計画といい、それを実行するまでの入念な訓練といい、現場での無駄のない統率のとれた働きぶりといい、捕まっても口を割らず、できるだけ救出することを約束し、それを実現する結束の強さといい、ここまでくると芸術の域に達している。昨今の「とくりゅう」犯罪の手口がなんと稚拙に見えることか。
2「緑色の魔液」(ハロルド・メーリング)
田舎町ファーミングディルに暮らす70歳のルイ・エンリヒトは水をガソリンに変えることに成功したと触れ回った。この奇跡の発明を見に新聞記者たちが訪れる。彼らの目の前で、ルイは世紀の大発明を実演してみせる。自動車のガソリンタンクが空っぽなのを確認させ、そこに水を満たし、最後に緑色の液体を注入したのだ。すると、自動車のエンジンがかかり、走行できたのである。この発明で一躍時の人となったルイであるが、多くの申し出が殺到しても、彼は決して緑色の液体の成分は公表しなかった。
実はこのルイ・エンリヒトという人物、これまでに数々の詐欺を働いてきたペテン師だったのである。実演してみせた車もガソリンタンクが二重底になっており、ペテンだったのである。いささか特異な風貌といい、無口で人を避ける傾向と言い、きわめて分裂病的な人物のようだ。彼は人を騙すという感覚に乏しかったのかもしれない。自分が何か偉大な発明をしたという妄想を生きていただけなのかもしれない。
3「西部のダイヤモンドラッシュ」(ハロルド・メーリング)
1872年、西部開拓時代にジョン・スラックとフィリップ・アーノルドという二人の鉱山
師がサンフランシスコに着いた。彼らはズック袋を携えていたが、どこに行くのにも彼らはこの袋を手放そうとはしなかった。人々はそんな彼らを見て、あの袋には何が入っているのだろうかと噂するようになる。二人はその袋をカリフォルニア銀行へ預ける。袋を預かった出納係はこっそりと袋の中を確認するや仰天してしまう。そこにはダイアモンド、エメラルド、ルビーなどの宝石類が一杯に詰まっていたのだ。調べると、二人は全山がすべて宝石という山を発見したことが分かった。その山はどこにあるのか、二人は口を割ろうとしない。その秘密を引き出すために多額の金が二人にもたらされ、ついに道中目隠しをするという条件でその宝の山に案内する。その地に案内された男はその光景に息を飲んだ。たしかにそこは宝石の山であり、掘り出すと次々に宝石が出てくるという。
ところがこれがすべて詐欺だったのである。スラックとアーノルドはアムステルダムで買い手のつかない粗悪なダイヤモンドを買い漁り、ロンドンでも粗悪なダイアモンドの原石などを買い集めたのである。彼らはそれをある山に自ら埋めたのである。
4「マンハッタンが沈む」(ハーバート・アシュベリー)
1824年、まだ小さな都市でしかなかったニューヨークでは、人々はセンターマーケットに集まっては素人討論会に花を咲かせていた。話術に長けたロジア老人は、アレン市長を訪れ、マンハッタン島の危機について話し合ったという。マンハッタン島の南端は巨大なビルが立ち並ぶようになって、そのうち地盤沈下を起し、島が沈んでしまうかもしれないと言う。ロジア老人が打ち出した構想は、マンハッタン島の南側を切断し、それを東側に移動させ、接合し、島の重力を均等にするというものだった。人々はそんなことできるはずがないと、最初は嘲ったのだが、ロジア老人の巧みな話術によって、人々はそれが可能であるかもしれないと思うようになった。こうして工事に必要な人材が募集されるようになった。工事に必要な重機や船舶、その他、作業員の食料までもが大量に納入された。工事開始の日には盛大なパレードが行われることも決まった。いよいよ工事開始。その日は作業員をはじめ、関係した人々、市民たち、パレードのために集められた鼓笛隊たち、すべてが顔を揃えたのだが、姿を見せなかったのはロジア老人と助手のアンクル・ジョンだけだった。そこに集まった人々は、最初は信じられなかったが、徐々に確信し始める、自分たちはロジア老人に騙されたのだ、と。
5「アメリカを救った海賊」(ドナルド・カルロス・ビーティ―)
海賊ジーン・ラフィットを捕えた者には懸賞金を出す。ニューオリンズの州知事クレイボーンがこんな手配書を発行するや、当のラフィットはクレイボーンを捕えた者にはその三倍の懸賞金を進呈するとやり返す始末。当時、米英戦争のさなかであったが、イギリス軍はニューオリンズまで攻撃の手を伸ばしてはいなかった。そのニューオリンズへもイギリス軍が進撃してくるという情報をラフィットは受け取り、それをクレイボーン知事に伝え、援助を申し出た。しかし、知事は海賊とは契約しない、とラフィットの申し出を却下する。その代わり、知事は総司令官としてアンドリュー・ジャクソン司令官を呼び寄せる。当地に着いたジャクソン司令官は、その武力の乏しさから、イギリス軍とは戦えないこと、形成はかなりニューオリンズにとって不利であることを見て取る。この時、ジャクソン司令官の前に現れたのがラフィットだった。部下も艦船も弾薬も全部自由に使ってくださいというラフィットの申し出に、司令官は心を決めた。ラフィットの申し出に感謝の意を表したのである。こうして、1815年1月8日、ジャクソン司令官率いるアメリカ軍とラフィット率いる海賊軍とが、多くのニューオリンズ市民の期待の目に見送られながら、イギリス軍を迎え撃つために出発したのだった。
ラフィットはその後市民権を得たのであるが、結局、彼は海賊に戻った。愛国心に強く、決してアメリカの船だけは襲わないように部下に命じていたという。しかし、やがて彼も部下を抑えることができなくなり、尚且つ、商船が戦艦で護衛されるようになり海賊行為ができなくなっていく。彼がどうなったのかは不明である。
6「日本最大の詐欺事件」(道村博)
これは伊藤斗福(ますとみ)理事長による保全経済界の事件である。投資を呼びかけ、かなりの富を蓄えたのだが、スターリンの死による株価の暴落(スターリンショック)のためにやむなく自転車操業で凌ぎ、さらに政治献金の疑いをかけられることになった。
結果的に詐欺事件へ発展したこの事件であるが、事件そのものよりも、伊藤斗福という人に僕は興味を覚える。かなり優秀な人であったように思う。少年時代には政治家を夢見ており、それには金がいるということで、高級品カバンは儲かるから、これで成功して政界に出ようと思ったという。そうしてカバン製造業を始めた斗福は、技術は優秀で、コンテストで一等を取ったほどであった。しかし、戦時下の統制で贅沢品が禁止されたことにより、高級カバン製造がダメになってしまう。その後、生命保険の会社に入り、浅草の出張所の所長となった。終戦後は闇市で儲け、1947年保全経済会を創設する。保全経済会は一年の間に大きくなり、次々に資金を集めていった。小口のお客さんを大事にして、投資を親しみやすいものにしようとした、という伊藤の計画は大当たりを取った。やがて不況の波が押し寄せ、配当も困難になる中、彼はどうにか事業を続けようとしたのであり、それが結果的に詐欺となってしまったようである。
もっとも卑劣なのは政治家連中である。献金を受け取りながら、伊藤が検挙されるや自己保身に懸命となり、「自分は保全とは何の関係もない」などと白を切りとおしたのである。昔も今も政治家の姿だけは変わらないように見える。
7「鉄鋼王の娘」(ウィリス・ソーントン)
チャドウィック博士は社会的地位も高く裕福であった。その妻であるチャドウィック夫人は贅沢好みだったが、いささか悪趣味でもあった。それでも商店も銀行もチャドウィック夫人には迎合していた。彼女が大量の品物を購入してくれ、銀行にも多額の財を預けてくれるからである。しかし、1904年11月、ルロイ・チャドウィックという女性が、手形で金を借り、返済できなかったために告訴されているというニュースが新聞社に届く。この女性があのチャドウィック夫人であるはずがないと人々は信じたのだが、プレス紙の記者は驚くべきニュースを報じた。エリザベス・リグビー、マダム・ド・ビア、チャドウィック夫人の三人の女性の経歴が非常に似ていると報じたのだ。つまり、チャドウィック夫人が詐欺師であることを報じたのである。
名前を変え、何度も結婚し、紙幣偽造や手形詐欺を繰り返したチャドウィック夫人。47歳で、決して美人でもない。それでも彼女には人を説き伏せるような力があった。多くの人が彼女に騙されたという。
8「サンタマリア号の反乱」(ジョセフ・P・ブランク)
ポルトガルの豪華船サンタ・マリア号は1961年1月9日リスボンを出発した。同号61回目の航海が始まった。1月20日、南米のラグアイラに寄港した際にガルボン大尉ら23人が一般の船客に扮して乗り込む。1月22日、武装したガルボン大尉たちはサンタ・マリア号を乗っ取る。このシージャック事件は、サンタ・ルチア島に降ろされた負傷者によって伝えられ、世界各国に報じられた。サンタ・マリア号は今どこにいるのか、捜索がなされた。大西洋航海中のサンタ・マリア号は1月25日にその存在が確認される。その後、2月2日にレシフェに入港するまで、船はガルボン大尉らによって占領されたのだった。彼らはポルトガル政府に反旗を翻し、同船を乗っ取ったのだった。
ガルボン大尉らの一団は、とても紳士的であり、船客たちにも親切であったようだ。これが私欲のために手を染める犯罪者と思想のために手を染める犯罪者との違いであるように僕は感じた。彼らの目的はあくまでも政治的なものであり、私欲を肥やすためではなかったのである。
以上、第1話から第8話まで読んだ。
本書には、ヘンリクス老人(2)とかロジア老人のような妄想型と言えるような人物や、チャドウィック夫人(7)のような口達者で人を惹きつける力のあるサイコパス的な人物が多数登場する。そういう意味でも臨床的に興味深い事例となりえるものである。
列車強盗団(1)や伊藤斗富(6)のような天才型、海賊ラフィット(5)やガルボン大尉(8)のような英雄型あるいは何らかの主義を強く信奉する型なども見られる。
ごくごく乱暴な分類だけれど、妄想型、サイコパス型、英雄型、主義型などと分類できそうだ。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

