2月5日:唯我独断的読書評~『世紀の悪党ども』(3) 

2月5日(木):唯我独断的読書評~『世紀の悪党ども』(3) 

 

 リーダーズ。ダイジェスト編『世紀の悪党ども』から、また8篇を読んでいこう。 

 

 

17「暗黒の巨塔」(スチュワート・R・ホルブルック) 

 ルポライターのハリー・トンプソンは、医学博士号を卸売りしている専門家たちが存在していることを知らされ、卒業証書偽造団の取材を任される。この偽造にはロバート・アドコックス博士が関与している疑いがあった。ハリーは、身分を隠し、アドコックス博士の近所に居住し、博士と接触する機会を得る。ハリーがうまくアドコックス博士に取り入ることができると、博士はハリーに医師免状を獲得する手はずを整える。博士はハリーをボイト博士に紹介する。 

 ボイト博士が種々の工作をする。まず、高校を出ていないハリーのために高校の卒業証書を手に入れるところから始める。それから廃校になっているボルチモア医科大学の前任者に頼んでハリーが廃校前の年学期に在籍したことにして、履修証明書を作らせる。多少の医学知識を身に着けるために、ハリーはアレクサンダー博士の講義を聴講する。そうして学位証書をハリーは受け取り、トンプソン医学博士に認可された開業免許まで出来上がった。ハリーは脊柱指圧師として開業できるのである。それに先立って、脊柱指圧師であるパールズ博士によるレッスンを3日受けることになる。開業に必要なものはパールズ博士が売ってくれる。こうしてハリー・トンプソン医師は脊柱指圧師として開業できるようになったのだ。 

 ボイト博士は他にも死亡して間もない医師の資格証明書を買い取ったこともある。それを医師志望者に渡し、死人になりすまして医師になった連中を生み出した。ある時は、金をはたいて資格試験問題の見本刷を手に入れ、42人のカモのために、42通りの答案を作成した。カモたちは、試験当日に、その答案を実物の答案用紙に書き写すだけで良かった。 

 医学証書を手に入れたハリー・トンプソンは、本来のルポライターに戻って、アドコックス博士、ボイト博士らの偽造工作をすっぱ抜いたのである。 

 

 

18「幽囚の美女を救え」(ルーファス・ジャーマン) 

 1950年代のアメリカでは、不思議な手紙を受け取る人が多くいた。そこには、囚われた囚人の救出、隠された財宝の獲得、そして美女を救い出し保護すること、といった冒険とロマンスが約束されていた。言うまでもなく、これは虚構である。囚人も財宝も薄幸の美女も存在しないのである。 

 その手口は実に念入りにストーリーが組まれている。人道主義者がカモになることが多く、冒険に参加するや、財産を奪い取られるという仕組になっている。いわゆる「劇場型詐欺」である。 

 この詐欺の起源は16世紀に遡る。スペイン艦隊敗北により、多くのスペイン人の兵士や水夫がイギリスの捕虜となった。その頃に、捕虜釈放の身代金と称して、捕虜の親類縁者から金を集め、そのまま着服するという詐欺が生まれたのだった。この「囚人救出」型詐欺は、その後、冒険とロマンスの脚色を加えて、発展し、継承されてきたのだった。 

 ちなみに、この種の詐欺は現在でもある。それはDMなんかで届くこともあるし、いわゆるSNSを介して詐欺団はカモに接する。カモと親しくなると、詐欺師は苦境に陥っていること、ないしは苦境に陥っている人のことをカモに伝える。その苦境から救うためにカモに一肌脱いでもらいたいと要求するのである。この詐欺に引っかかるカモは、僕の経験では、かなり「自己愛的」な人間に限られているようである。 

 

 

19「若返りの秘術」(ハロルド・メーリング) 

 ずいぶん怪しい手段で医師免状を取得したジョン・ブリンクリーは、山羊の腺を移植してくれと言う農夫の手術を行ったことで、評判を得る。1917年のことであった。彼は自分の病院を大きくするためにラジオを利用した。当時としては画期的な宣伝手段だった。それにより、彼の名は広く知れ渡り、患者ならびに悩める者からの相談は後を絶たなかった。幾多の危機を乗り切ったブリンクリーは薬局をも味方につけ、その勢力を増していった。しかし、1930年に新聞がブリンクリーの罪を糾弾しはじめる。彼の移植手術を受けた患者たちは亡くなっており、彼の医師免許もペテンであることをすっぱ抜いた。法の網をくぐり、且つ、ラジオによって支持者を増やし続け、ブリンクリーはついにカンザス州知事に立候補するに至る。彼は落選するが、次の選挙にも立候補することを決意する。そのために彼は新たなラジオ局を開設し、自分の声を広く行き渡せることに余念がなかった。しかし、二度目の選挙にも落選し、さらに追い打ちをかけるように、彼に関する数々の暴露がなされ、かつての患者たちも彼を訴訟するようになった。以後、彼は破産し、1942年に56年の生涯を終えた。彼はあと一息で高い政治的地位に就く最初の偽医者となるところだったのだ。 

 こういう詐欺師には独特の「才覚」のようなものを僕は感じてしまう。このジョン・ブリンクリーなる人は、3歳になるまで言葉を発しなかったらしいが、ラジオであれだけ雄弁に語るようになるのである。加えて、彼は「救世主」願望があったようで、疫病を治す自身の姿を夢見たという。その妄想を生きたという見方もできるかもしれない。それに、当時は新しいメディアであったラジオを利用するなど、先見の明も持ち合わせていた人物であったかもしれない。 

 

 

20「古代人の正体」(オールデン・P・アーマナック) 

 アマチュア化石収集家のチャールズ・ドーソンがピルトダウンでの発掘品を大英博物館に持ち込んだのは1912年だった。ピルトダウン人は50万年前の氷河期時代初期の人類であったと推定された。こうして40年に渡りピルトダウン人は「原人」の仲間入りを果たしてきたのだが、1953年、ピルトダウン人が発掘者ドーソンによる捏造であることが発覚した。オランウータンの頭蓋骨と古代人の切片を接合し、着色等を施し、50万年前の人類の骨と称したのだった。 

 ただ一つ残された謎は、ドーソンが捏造する動機であった。ピルトダウン人の発見によってドーソンが得るところのものは何もないのである。僕が思うに、偉大な遺物を発掘したいという発掘家の妄想の実現だったのではないだろうか。 

 

 

21「国債郵便切手の効用」(アラン・ハインド) 

 36歳のチャールズ・ポンツィは貿易商に努めるしがない事務員であったが、ある時、素晴らしい閃きに恵まれる。外国から郵便クーポンを安く買い、それをアメリカで高く売ったらどれだけ儲かるだろうか、と。彼はそれを早速実行する。彼は50ドルを90日後には75ドルにするという触れ込みで出資させる。その利息分をまた別の出資者から集める。ポールに払戻す金をピーターから徴収するという方法だったが、90日後に投資額が1.5倍になって返ってくるという事実が評判となり、ポンツィは投資会社を設立する。 

 この投資の方法は、まず、50ドルを90日後に75ドルに増やすということを実現する。出資者はそれをそのまま彼に預けることになる。つまり、75ドルを投資し、90日後の5割の利息を受け取ろうとするわけである。評判が評判を生み、彼の投資会社には連日長蛇の列ができる。一日に莫大な金額が彼の会社に入ってくる。さらに彼は社員を雇って投資家をかき集めた。 

 やがてポンツィはハノバー信託銀行の頭取の地位にまでのし上がる。出資者は増え続け、その他の事業にも手を出し、資産家となったポンツィであるが、新聞記者のエディ・ダンは疑惑を抱くようになる。利息はどこからその資金を得ているのだろうか。さらに、ポンツィはかつてカナダで刑に服したことがあるという噂をダンは耳にする。記者マクマスターズをポンティに近づけ、捜査が始まる。マクマスターズはポンツィの言動から疑惑を深めていく。 

 そうしてポンツィは詐欺により有罪を受ける。イタリアへ国外追放となる。イタリアではムッソリーニが権力の頂点に立っていた。ポンツィはムッソリーニのために一肌脱ぐ覚悟があると訴えるが、ムッソリーニの没落と同時にポンツィの没落も始まる。ポンツィはアル中に陥り、貧困のうちに世を去った。 

 

 

22「偉大なるペテン師」(ロバート・クライトン) 

 フェルディナンド・デマラ。彼が逮捕された時はマーティン・ゴッドガートであり、別の時はロバート・フレンチ博士、またの名はセシル・ヘイマン博士、刑務所時代にはベン・ジョーンズ、海軍軍医時代にはジョゼフ・シール博士と名乗っていた。デマラは数々の偽名を用いてペテンを働いてきたのだが、その業績は輝かしいものでもあった。海軍軍医時代には、医学の知識もないのに、4人のけが人の手術を行わざるを得なくなり、刑務所時代には多くの囚人を改心させたりした。離れ小島の学校では、子供たちに教え、貧しい子供たちのためにサンタクロース役さえ努めた。これほどの善人がなぜ経歴を詐称し、身分証を偽装し、別人になりすまさなければならなかったのだろう。 

 こういうことができるのはきわめて分裂病的な人物だと僕は思う。カメレオンのようにその場に合わせて自分を変えてしまうことができる。それも周囲の人がまったくそうと気付かないほど巧みになり切ってしまう。そうしてデマラという人は自分自身の生を送ることなく、その時々で、別の誰かの人生を生きてきたと言えるのではなかろうか。唯一の救いは、彼がそれほどの悪党ではなかったことだ。 

 

 

23「10億ドルを盗んだマッチ王」(アレン・チャーチル) 

 1920年代からヨーロッパのマッチ市場をほぼ独占していたマッチ王ことアイバ―・クリューガーは、その経営手腕で巨大な富を築いた一方で信用詐欺を繰り返した。各国に金を貸し、マッチ販売の独占権を得ることで富を得て、莫大な税金を払うことで信用を増しそれ以上の額の金を借りる。粉飾決算もお手の物で、多くのユーレイ子会社を立ち上げては、それぞれの子会社に利益があるように工作する。また、同じように多くの会社を合併していき、それによって、誰も彼の会社の経理をチェックしようなどと思い立つ者が現れなかったという。 

 クリューガー自身は、子供時代から仲間をペテンにかけるところのある人物だった。彼にとって必要なことは他人に優越することであったようだ。富を得てからは至る所で女を獲得してきたようであるが、かなりの分裂気質で冷血漢であったようだ。 

 

 

24「ルネサンスの名作」(ミロン・ブレントン) 

 1920年のこと。アルチェロ・ドセーナという無名の石工は自分の小さな仕事場で建物の柱の模様を彫るという平凡な仕事に取り掛かっていた。仕事をしながら、ドセーナの夢想は広がっていく。夢想の世界では彼は有名な彫刻家であり、彼が敬愛してやまない偉大なるルネサンス時代の彫刻家であった。ついに彼は夢想を実現した。敬愛する彫刻家たちの作品を模倣して、傑作を生みだしていった。 

 ある時、ファゾーリという古美術商がドセーナの作品を見に来た。こういう複製を安く買いたい客がいるものだと言って、ファゾーリはドセーナの作品を買い取る。しかし、ファゾーリの本心は別にあった。彼はそれを専門家に鑑定させ、それがルネサンス期の本物の彫刻であるという太鼓判を押させる。そうして、ファゾーリは、ドセーナからは安く買い、本物のルネサンス彫刻として高く売ったのだった。多くの専門家も美術館も、さらには芸術愛好家も、ドセーナの作品を「本物」と信じてきたのである。知らぬはドセーナ本人だけだった。 

 やがてファゾーリの悪事が明るみに出されたが、ドセーナは無実であった。この騒動後も彼は彫刻作品を生み出し続ける。彼の作品の購入者には、あなたが購入したこの作品は「本物の偽物」であることを証明するという、イタリア政府発行の証明書が手渡されることになった。 

 ドセーナという人は、やはり一種の天才だったと僕は思う。ただ模倣するだけでなく、それは綿密な鑑定でも見破られないほど精巧に作られた作品だったのだ。そのような作品を作れたのは、技術の問題ではなく、自身をルネサンス期の彫刻家たちと同一化する能力によるものだったと僕は思う。僕の分類では、妄想型であるが、天才型でもある。 

 

 以上、第19篇から24篇までを読んだ。 

 ポンツィ(21)やクリューガー(23)など、かなり大規模犯罪が目立つ。ピルトダウン人を捏造したドーソン(20)は、それによって金銭的な被害を被った人はいないかもしれないけれど、長年にわたって学会を騙した罪は大きいものである。ドセーナ(24)は、騙したファゾーリが悪党であって、本人は憧れを生きただけの無害な人であったように思う。騙す者と騙される者、騙している自覚している者と騙していることに気付いていない者、人間実に多様で、それぞれに物語があるものだ 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

 

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