＜＃０１６―３６＞「先生の方から電話しないのですね」
＜Q＞
「先生の方からは電話しないのですね」
＜状況と背景＞
これは予約日時に遅刻してきた人が言うものであります。つまり、私の方から電話して、「○○さん、今日〇時から予約取ってますよ」とか「○○さん、〇時にお見えないなられないけど、どうされたのですか」などと連絡してこないという意味であります。
＜A＞
ことさら私の方から連絡しなくても、クライアントさんの方から連絡してくるものであります。経験的にそのことが分かっているので、私の方からは連絡しないだけであります。
それに、クライアントさんがお見えになられない場合、１５分は待つことにしていますが、その後は私自身の用事なり仕事なりをすることにしています。大抵の場合、そうこうしているうちにクライアントさんから電話がかかってくるものであります。
＜補足と説明＞
予約した日時にクライアントが訪れない場合、私も多少は心配になります。何かあったのだろうか、などと心配になることもあります。特に、いつも時間通りに来談されている人の場合であると、きっと何か起きたに違いないなどと思ってしまうのです。そういう時に私の方から電話などかけるとその人を煩わせてしまうのではないかとも思って、少々遠慮してしまうのです。それも私の方から電話をかけない理由の一つであります。
また、これは私の個人的な印象に過ぎないのですが、クライアントが予約日時に姿を見せないからといって、すぐにカウンセラーの方から電話するというのは、どうもカウンセラーとしては滑稽だという気がしてしまうのです。クライアントが来られないということでアタフタしているカウンセラーの姿が思い浮かんでしまうのであります。
私の場合、クライアントさんの方から連絡をくれることを経験的に知っているだけでなく、クライアントさんの方から連絡をくれると信用しているのでもあります。
要するに、そこでカウンセラーの方から連絡するというのは、そのクライアントに対して、カウンセラーが不信表明しているようなものに私には思えてしまうのです。
大抵の場合、と言っても私の経験の範囲のことでありますが、その日のうちにクライアントさんの方から連絡を入れてくれるものです。
その日、連絡がなかった場合のみ、翌日に私の方から連絡することもあります。常にそうするというわけではないのですが、クライアントによってはそうすることもあるという意味であります。敢えて一日置いてみるわけですが、それはそれで理由があってしていることであります。その理由ですが、それは今回の質問からかけ離れてしまうので、ここでは省略させてもらいます。一言述べておくと、そのクライアントさんの「対人戦術」によるものであります。
また、予約を取るのはクライアントさんの方であります。クライアントさんのニーズがあるから、クライアントさんは予約を取られるわけであります。カウンセリングを必要としているのはクライアントさんの方であります。
そこを押さえておくと、もし、予約日時にクライアントさんが訪れず、カウンセラーが即座に電話で連絡を取るといった行為は、カウンセラーの方がそのクライアントさんを必要としているように私には見えてしまうのであります。それは本末転倒と言えると思うのであります。
あくまでもクライアントさんのニーズを根本に置けば、そこでカウンセラーの方から連絡するというのはおかしい話であるように私には思えてくるのです。
それに、予約を取ることも、それに関して連絡することも、それはクライアントに属している事柄であると私は考えています。
私の方でも、その予約を守ること、実行すること、そして、私の方で連絡することがあれば連絡することなど、私に属している事柄もあります。
予約日時に私は面接室でその人を待つ。それは私に属している事柄であります。クライアントがその時間に遅れそうであるとか、日時を間違えていたとか忘れていたとか、それはクライアントに属する事柄であり、そのためにカウンセラーに連絡するということもまたクライアントに属する事柄であると私は考えています。
つまり、私とクライアントとの境界線を明確にしていると、そこでカウンセラーの方から連絡をするというのは不自然であります。それはその境界線をぼかすことになると私は思うのであります。従って、本当なら確立されなければならない自他の境界をカウンセラーの方から妨害していることになるわけであります。
そのような観点に立つと、そこでカウンセラーの方からクライアントに連絡をするというのは非治療的な行為であると私は考えています。
（文責：寺戸順司－高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー）
