7月21日(月):書架より~『心理学入門』(ゴノボリン著)(4)
ここから第7部「低学年児童の心理学」に入る。
内容は低学年児童の教育がメインであり、教師に向けて書かれている。低学年児童も教育現場も、僕自身にはほとんど接点のない領域であるが、一応、読んでおこうと思う。それに、児童心理学を知っておくことは臨床の場面でも大いに役立つ。
「第22章 低学年期の子どもの一般的特徴」
低学年ないしは就学前の時代も含めて、児童の人格発達、心理・身体的特徴などを全般的に捉える。学校に通うようになると子どもはいずれ環境に慣れていき、態度が形成され、教師と授業とは子どもに影響を与える。道徳的発達の促進並びに知的能力の発達などが目指される。
本章では全般的概観を行い、次章から各テーマに入る。
「第23章 低学年児童の注意」
本章では児童の注意能力に焦点を当てる。低学年児童の注意は不安定であり、逸れやすく、集中性は対象によって波があり、注意の範囲は狭く、配分も不十分である。児童の注意を教育するにはどうするのが有効か、また教師はどのようなことをする必要があるのかを説く。
「第24章 低学年児童の認識過程」
この章では認識過程という広範囲の内容を取り上げている。それは感覚・知覚から始まり、記憶・記銘の領域へ広がり、思考と言語活動、表象へと至る。それぞれの領域における発達並びに教育について。
「第25章 低学年児童の感情と意志」
低学年児童では肯定的感情が支配的であり、生徒の感情に気を配る教師は授業に成功する。感情は教育される。不必要で否定的な感情は抑制する習慣を子供に身につけさせること。加えて高次の感情を育てなければならない。意志を強化するには努力が欠かせない。意志も教育されなければならず、意志教育は、自分自身で目的を考え、設定し、知的努力を集中し、じっくり考え、自分をよく制御することから始まる。
「第26章 低学年児童の心理的特性」
ここでは心理的特性として、興味、信念、才能、性格並びに気質を取り上げている。それぞれに教育の目的がある。
興味を伸ばすには、興味のあることに興味のないことを結びつけることである。
児童には各々才能がある。才能の指標となるのは、注意、記憶、思考力、判断力、想像力、創意性、自主性、生産性である。学習は才能の発達を促すが、誤った学習では逆の結果をもたらす。また、努力を怠ると才能は衰える。
気質は早い段階で教育する必要がある。悪しき気質は抑制され、望ましい気質を伸ばすようにしないといけない。それは性格の基礎となる。教師の課題は社会的に受け入れられる行動規範を児童のものとさせることである。
「第27章 低学年児童の学習、遊びおよび労働活動」
学校教育では生活に必要な事柄が学習される。上手く行くかどうかは動機に依存する。学校教育における学習の利点は相互的であること並びに集団的・同時的であること。知的水準の向上だけでなく、それは一般的能力の発達をももたらす。学習の過程は発達の過程でもある。
児童のもう一つの主要活動は遊びである。遊びは生活に対する準備をさせる。
労働は歓びの感情をもたらす。労働は、他の人たちの利益を意識し、喜びをもって労働する時にのみ高い道徳性に結びつく。
学習と労働の過程で、児童にはさまざまな技能や能力が身に着く。自分に要求されていること、自分が学ぶべきことがはっきり理解されていると、練習は良い結果をもたらす。
児童への教育の核心は良き習慣の形成にある。そのためには固い決心をすること、良い行為の反復をすることである。
第7部の6つの章を駆け足で眺めたが、もちろんかなり大雑把な抽象である。僕が特に感心したところや納得したところ、印象を受けた部分だけを取り上げている。原書は、実際の教授場面や児童の事例なども交えて論じられており、もっと内容が豊富であることはお断りしておこう。
さて、以上でゴノボリン著『心理学入門』を通読したことになる。上述のように、本書はたいへんコンパクトにまとめられており、充実した内容を含んでいる。僕の記述はほんの触り程度のものであることを再びお断りしておく。
ロシアの心理学は、パブロフの伝統を受けて、生理学的であり唯物論である。本書もその視点で書かれている。
教育に関しては、当然のことながらロシアの社会主義を背景に持っている。学校教育で子どもたちは社会主義の思想を身に着けることになる。その国で生きることになる子どもたちなのだから、その国の主義を身に着けるのは当然である。そうでなければその国で適応的に生きることができなくなる。これを「洗脳」などと考えてはいけないと僕は思う。
その教育論であるが、目的をしっかり見定めている感じを受ける。例えば、子供の自主性に関しても、その自主性がどこに行きつくのか、それによって何を達成するのか、そうした到達点まで視野に入れて論じられているところに好感が持てる。ともすると、日本の場合、自主性そのものが到達点のように考えてしまっているかもしれないだけに、そうした観点は不可欠であるように思った。
最後に本書の僕の評価は4つ星だ。今回は通読する感じであったが、いつかもう少しじっくり読んで学びたい気持ちになっている。
<テキスト>
『心理学入門』(1973年)ゴノボリン著 (原著タイトルはロシア語のため割愛)
新井邦二郎、内野康人之、上岡国夫 訳
新評論社 1975年刊
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

