12月12日(金):ミステリバカにクスリなし~『ころがるダイス』
E・S・ガードナーのペリイ・メイスンもの。1939年の作品『ころがるダイス』を読む。
ガードナーの作品は面白いと感じる。どの作品も安心して読むことができる。ハズレがないのだ。その代わり、最高傑作とか、多くの人が評価している名作と呼べるような作品が見当たらない。どの作品がベストかっていうのも、人によって異なることだろうと思う。本作はベストに入れたい気持ちが僕にはある。
物語は金鉱で一山当てた資産家オルデン・リーズの親族がメイスンを訪れるところから始まる。オルデンはエミリイ・ミリカントという女性と婚約している。それを快く思わない親族もいるのだが、何よりも、オルデンが何者かに恐喝されているのではないかという疑惑が持ち上がっている。オルデンから2万ドルの小切手がルウイー・コンウエイなる人物に支払われている。彼らはメイスンに調査を依頼する。
コンウエイとは何者なのか。探偵のポール・ドレイクが調査するところでは、コンウエイ機器商会の社長である。いかさまサイコロを販売して儲けている会社であり、コンウエイはこの社をガイ・サールという人物に譲渡している。
調査が進展しないうちに、リーズの親族がオルデンを精神病院に入れてしまう。禁治産者にして、彼の財産を管理しようという魂胆である。オルデンの甥ジェイソン・カレルがドライブに連れ出したところ、オルデンが発作を起こし、そのまま精神病院に直行したということだ。
メイスンは人身保護令状を出し、裁判を通して、オルデンの入院は無効であることを立証する。しかし、オルデンは病院から逃走しており、その後、行方不明となる。
一方、オルデンを恐喝していたとみなされるコンウエイは彼のアパートで殺害される。行方不明だったオルデンが事件発生時間帯にコンウエイを訪れている。彼は殺人容疑をかけられることになる。
さらにコンウエイはジョン・ミリカントと同一人物である疑惑が持ち上がる。オルデンの婚約者エミリイ・ミリカントの兄である。さらにオルデンが関与したとされる20年前の事件とは何か、ビル・ホガティとは何者なのか、そのことでどうしてルウイーがオルデンを脅すようになったのか。さらにルウイーと後継者のサールとの間にどのような諍いが起きたのか。事件は、その関係者の関係も含めて、錯綜していく。
あまりネタバレしないようにしないといけない。本作品は、偽名を用いたりなど、とかく一人二役が頻繁に出てくる。オルデン自身が一時期ビル・ホガティを名乗ったりしていたのでさらに錯綜してくる。そうして人間関係が複雑になってくる。事実がどうであったのかがなかなか見えてこない。
当然、殺人事件には真犯人がいる。犯人はアリバイ工作をする。このアリバイ工作がなかなかよくできている。メイスンはそのアリバイを崩すのだが、容疑者の発した注文の仕方でそれを立証していくところが鮮やかだ。確かに、急いでいる時に人がそんなふうに料理を注文するのは不自然である。指摘されればそれが分かるのだけど、読んでいる方はそこに気づかない。巧みに騙されてしまう。
あと、オルデンを入院した医師が印象に残っている。人間の自然な反応を精神症状の兆候と受け取ってしまうという、臨床家にありがちなミスを犯している。
それに、けっこうザツな診断をしている。一つの兆候の観察だけで診断が決定され、即座に処置が決まっているのである。本書が1939年の作品であることを考慮すると、それが当時の精神医学的診断では通常に見られたことであったのかもしれない。
さて、本書の僕の唯我独断的読書評は4つ星半だ。とても面白い。僕がゴチャゴチャ書かなくても一読していただければ本書が面白いってことがわかるかと思う。
<テキスト>
『ころがるダイス』(The Case of the Rolling Bones)E・S・ガードナー(1939年)
田中融二 訳
ハヤカワミステリ文庫
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

