7月18日(金):書架より~『心理学入門』(ゴノボリン著)(1)
心理学を勉強しているとどうしても欧米のものが主になってしまう。もっと他の国の心理学が日本に入ってきたら面白いと僕は思う。アジア圏の心理学なんかもきっと面白いだろう。ロシアもそうだ。
とは言え、パブロフ、ルリヤ、ヴィゴツキーなど、ロシアの心理学も日本に入ってはいる。でも、もっといろんな先生の本を読んでみたいとも思う。ロシアはロシアで独特の心理学をやっているという印象を僕は持っているので、ロシア心理学にもっと触れてみたい気持ちがある。
本書はロシア人の手による心理学書である。ロシアのテキストなので、ロシア人の学者の言葉や研究なんかも多く紹介されており、その点でも僕はけっこう本書を重宝している。内容も簡明且つ簡潔で読みやすい。それに、欧米の心理学者が言わないようなことも言っており、そこも面白い。
また、著者が唯物論に立っていることも僕にとっては魅力である。僕はあまり唯物論の立場に立つことはないんだけれど、それだけに本書から得るところも多い。
加えて、本書は教職を目指す学生向けのテキストとして書かれており、児童心理、教育心理的な内容となっている。特に第7部などはかなり授業の実践的な内容を含んでいる。子どもの教育、授業に対しての著者の姿勢も、少なくとも僕には、共感できる思いがする。
まず、第1部「心理学の一般的基礎」は4つの章を含んでいる。
「第1章 心理学とは何か」
ここでは心理学の定義から始める。心理学とは、人間の心理現象、心理活動の法則を研究する科学である。続いて、著者の唯物論的立場を明確にする。これは観念論を排除する姿勢を通して明確化されているが、観念論哲学がブルジョア階級に利用されるというのは、一面では理解できるものの、ロシアの事情という感じがしないでもない。
「第2章 脳と心理現象」
ここでは脳と神経系統に関する基礎的な事柄が述べられている。やはりと言うか、パブロフの理論を中心に概説されている。
「第3章 心理科学の課題と方法」
心理学を学ぶ意義、並びに、心理学が課題としているところのものを明確にする。その後で、心理学の方法が紹介されている。
「第4章 心理現象と意識の発達」
本章では、動物における心理現象の発達と人間における意識の発達とを区別する。大切な区別であると僕は思う。動物の心理現象は本能や習慣によって規定されている部分が多い。人間においては、それらの行動は知性、理性に支配されている。
動物は課題解決においても、一般化する能力に限界があり、試行錯誤に頼るが、人間は理論的に考え、解決を導く。
人間の高次の心理現象が意識である。それは人間に固有のものであり、集団や社会の中で発達したものである。
続いて第2部は「人格と活動の一般的性格」と題し、三つの章から成っている。どれもが非常に興味深く、面白い。ただし、マルクス主義、共産主義的な記述は少し脇へ置いて、あまり極端な方向に進まなければである。非常に重要なことも記述されているように僕は思う。
「第5章 人格とその形成」
人格とは他の人々との関係にある具体的な生きた人間である。人格には安定性があり、また活動性がある。その活動は動物のそれとは異なり人間固有のものがある。
「第6章 活動に関する概念」
人の人格は活動や行為の中で明らかになる。活動は目的を持つものであり、衝動的な行為は活動とは言えない。
また、活動には動機が伴い、その動機は主体に近いものから遠いものまで含まれる。個々の活動は総合され構造化される。
活動がうまくいくかどうかは、活動の目的だけではなく、主体の意志や注意、集中度も関係する。
「第7章 意識的活動の条件としての注意」
注意とは意識の方向付けであり、無意図的注意、意図的注意、後意図的注意と分けることができる。
注意の属性としては、集中、配分、転換が挙げられる。
注意力は人格特性となり、倫理的性質にもつながる
ここまで第1章から第7章まで、いささか駆け足で読んだが、僕の記述は内容をかなり抽象していることは明記しておこう。コンパクトにまとめられているだけに、全貌をつかもうと欲するなら、ほぼ全文を記述しなければならなくなりそうだ。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

