3月27日(木):キネマ館~『三人の狙撃者』
フランク・シナトラが大統領暗殺を狙うスナイパーを演じるミステリ映画。1954年ころに制作された白黒作品で、音楽、編集などで古めかしさを感じられるが、なかなかよくできた作品だと思う。あまり期待しないで鑑賞しただけに得した気分を味わっている。
舞台はサドンリーという町。突然何かが起きる町だからそういう名前がついたのだろうと冒頭で説明される。これから始まる物語の前兆を示している。
物語はこの町の日常的風景から始まる。保安官トッドは戦争未亡人のエレンに思いを抱いている。エレンは丘の上の一軒家にて、父親と息子ピッジと暮らしている。彼女は夫の命を奪った銃を憎み、息子のピッジを過保護に育てている。そんな母親の態度を父親もトッドも戒めるが、彼女は頑なに拒む。この町で毎日のように演じられている光景なのだろう。
一通の電報が町を急変させる。今日、5時の電車で、大統領がこの町に来るというのだ。急遽、厳戒態勢が布かれる。地元の警官だけでなく、カーニーを筆頭とする護衛官が派遣され、リムジンが用意され、州警察が出動し、さらにはバロンら三人のFBIまで到着する。
FBIの三人は丘の上の一軒家に注目する。駅を一望に見下ろすこの家は狙撃に適しているからである。そこにカーニーとトッドが来る。エレンの父がかつてカーニーの上司であり、視察を兼ねて会いにきたのだった。そこで三人のFBIが偽物と判明し、カーニーは撃たれ、トッドも腕を負傷する。
以後、舞台はもっぱらこの家の内部だけとなる。エレンの家族3人に、保安官のトッドが監禁されることになる。後に、テレビの修理にきたジャッドも加わる。大統領到着の時間が迫る。彼らは着々と暗殺の準備を進める。人質となった彼らはバロンの愛国心に訴え、感情に訴え、さらには逃亡の可能性を説いて説得を試みるが、バロンは聞き入れない。
バロンを演じたフランク・シナトラが実にいい演技をしている。
バロンは戦争の英雄だった。27人のドイツ兵を殺し、勲章を授かっている。銃の腕前は抜群なのだろう。戦後もそのまま人殺しを続ける。つまり殺し屋を稼業としている。もし、戦争が彼の性格を変えたというのなら、それはトラウマによるものと言えるだろうけれど、作中ではそのようなエピソードが語られていなかったように思う。なので、こいつは人を殺すのが根っから好きな奴なんだろう。人を殺すために生まれてきたような奴だ。現代風に言えばサイコパス的な人物である。
そして、この男は極めて饒舌だ。ゴルゴ13のような寡黙さがまったく無いのである。どちらかと言えば自己顕示的である。子供(ピッジ)の侮辱に対しても真剣に反応するという過敏さがあり、自己愛的な傷つきやすさもあるようだ。部下に対して、その不手際に対しては、容赦なく感情をぶつけるなど、爆発的なところもある。
最後、バロンは撃たれるのだけれど、情けない表情で「撃たないでくれ、殺さないでくれ」と命乞いする。こういう小心さが彼の本来の姿であるのかもしれないが、これは自分は失敗するはずがないという思い上がりの反動のようだ。
こういう複雑な性格のサイコパス野郎をシナトラが見事に演じていると僕には感じられた。フランク・シナトラがちょっとカッコいいなと思ってしまった。
保安官トッドを演じたのはスターリング・ヘイドンだ。無骨で男くさいキャラで、どっちかと言えばシナトラよりこっちの方が悪役だろうと思ってしまう。でも、男くさいやり方で優しさを表したりもする。シナトラと対照的なキャラだけに双方がお互いを引き立てているところもあるのかもしれない。
それとストーリーと脚本がよくできていると僕は思う。
エレンが銃をきらうこと、父親がテレビを修理するところ、トッドがピッジに玩具の銃を買い与えること、何気ないエピソードがしっかりプロットに組み込まれている。
また、冒頭で運転手が保安官に道を尋ねるシーンがある。サドンリーの町が素通りされるシーンなのだが、これも大統領の乗った電車がサドンリーで停車せずに素通りしていくシーンを予期させる。そして、ラストでも同様のシーンがある。運転手が道を尋ねて、サドンリーを通過するのだが、これはいつか再び事件が突然に(サドンリー)起きることを暗示しているかのようでもある。
そして、物語の大半を占めるのが一軒家での狙撃犯たちと人質たちとのやりとりである。その極限状況が緊密なシークエンスで構成されている。両者の駆け引きであったり、バロンの体験や思想の語りであったり、観ていて引き込まれるところも少なくなかった。一室に6~7人が密集し、各自がそれぞれの動きを見せるという、小刻みな感じの躍動感も特徴的だ。そして、大統領暗殺を阻止するというサスペンスよりも、人質たちがいかに助かるかという強烈なサスペンスの方に主眼がある。
実にいい作品であったと僕は思っている。僕の唯我独断的評価では4つ星半といったところだ。もっと丹念にシナリオを分析したい気持ちに襲われる一作だった。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)