1月14日(水):書架より~『心のはたらき』(1)
今月は一般心理学を再学習するという目標を立てている。その一環として本書をチョイスした。過去に何度か読んでいるものだけれど、今回、また新たに読んでみようと思う。
本書はライフ誌の人間と科学シリーズの一冊として出た本である。著者ジョン・ローウァン・ウィルソンと言う人は、外科医であり医療ジャーナリストである。必ずしも心理学の専門というわけではなさそうだ。翻訳者は、宮城音弥。
全体は8章から成る。それぞれ前半は本文であり、後半は写真やイラストなど種々の資料を駆使して補足的な説明などが施されている。本文は非常に分かりやすく書かれており、後半はさらに理解を促し、興味を掻き立てることに役立っている。
「1 とらえがたい人間の心」
心理学に関する歴史の章といえる。プラトン、アリストテレスから始まり、デカルトへ至る哲学の流れ。その後のフェヒナーの精神物理学、ブントの実験科学心理学へと至り、ブント心理学の批判からウィリアム・ジェームズの心理学へ。無意識の重要性を説くフロイトから20世紀心理学の二つの流れ、行動主義とゲシュタルト心理学へと追っていく。ゲシュタルト心理学はさらに認知科学へと発展し、コンピューターから心理機能を教えられる時代に至る。
後半は脳の構造と感覚器官、神経系が色彩豊かなイラストで提示されている。こういうイラストは見てるだけで楽しくなってくる。
本文は非常に明晰であり、分かりやすい。基礎的な知識を確認するにはちょうどいいテキストと言えそうだ。デカルトの「我思う故に我在り」の名言は、実存的解釈に依らず、心理学的解釈に依れば心の存在は観察できる事実であるという意味になるのは頷ける。また、行動主義の源泉の一つに、感覚は行為としてのみ記述できると説いたブレンターノがあるとも言えそうである。
「2 心のメカニズム」
本章は脳・神経生理学的な内容になっている。心の働きを研究するには、まず神経系から始めなければならないという著者の主張に従って、まずは神経細胞と神経系の構造が述べられる。それからガレンによる最初の神経学的発見から、その歴史を追う。ウィリアム・ハーベイの血液循環論、デカルトの反射運動の説を経て、中枢神経に入るインパルスの流れと中枢神経から出るインパルスの流れを発見したベル・マジャンディーの法則、チャールズ・シェリントンによる反射の神経回路の研究などが紹介される。神経活動は意識に上がる。脳は専門化した領域を持つが、神経系の活動を統合している。
これらはすべて神経学の領域である。脳が統合という働きをして、さまざまな神経過程を結合して、経験という一つの構造物を作ること、これを立証するのが心理学の仕事であると説く。知覚を例にしても、それは生理的現象ではなく、物理的因子、精神的因子、情動的因子とを含んでいる。
後半は知覚や感覚に関する実験写真やイラストが多数掲載されている。感覚遮断実験の模様、各種の錯視図形、色彩感覚に関する実験など、見てるだけで楽しくなってくる。
実体鏡の実験などついやってみたくなった。確かに立体的に見える。錯視図形は、一部そのように見えないものもあるとはいえ、ほとんどの図形でそのように見えた。色彩感覚の問題でも著者が言っているような現象が生じた。そうして僕の知覚は普通であり、異常な所見はないことを知って安心する。時々、僕はモノの見え方が普通じゃないんじゃないかと心配になるのである。
本文の方は脳神経に関する事柄が平易に書かれている。恐らく、その方面の専門家からすれば、基礎的なことしか述べられていないと評価するかもしれない。それでも基礎的なことを押さえておきたいという目的ではいいテキストになるかと思う。僕自身は生理学的研究を必要としていないとはいえ、基礎的なことは知識として持っておいた方がいいと思うので、最適なテキストになるかと思う。
「3 心の病―原因と治療」
臨床に関係する章である。心の病として、まず神経症を挙げている。不安状態、心気症、恐怖症、ヒステリー、抑うつと個々に説明がある。強迫症が欠けているのが気になるところだけれど、各々の説明は要を得ている。神経症的抑うつは、恐怖からの逃避ではなく、恐怖への降伏を意味しているとは言い得て妙というところだ。続いて精神病の記述がなされる。精神分裂病として、単純分裂病、破瓜病、緊張病、偏執病の下位分類がそれぞれ解説され、もう一つの精神病として躁うつ病が取り上げられている。その後、申し訳程度に精神病質への言及がある。
治療に関しては行動療法が掲載されている。精神分析は後の章で取り扱われるからであろう。なかなか面白い事例が載せられている。
後半の写真イラストページでは、信仰による治療、収容所としての施設の状況、ピネルによる病者の解放など、他の書でもみかける絵が載せられている。作業療法、絵画療法、その他の試みの写真もある。最後に一人の女性患者の入院の記録が写真とともに綴られているが、大いに学ぶところがあった。
なお、本章最初にジェリー・クークによる写真があり、そこには精神病院の一隅に希望もなくうずくまっている患者が写されている。これは病者の姿だけではなく、病者の心の中の世界をも映していると僕は感じる。この写真は大事にしたいと僕は思う。
「4 無意識の世界」
この章はフロイトを中心に精神分析を扱っている。フロイトによる精神分析の誕生とその後の発展を概観し、支流となったアドラーとユングにも言及されている。フロイトの没後のイギリス学派並びに新フロイト派の面々まで綴られている。たいへんコンパクトにまとめられている章である。
後半は写真で見るフロイトの一生である。これらの写真やイラストはいくつもの専門書などでお見かけするものである。休暇を楽しむフロイトたちなど、珍しい写真もある。精神分析の学説に関しては一切妥協を見せない厳格さ、夜遅くまで仕事をする勤勉さ、そうした側面が強調されるフロイトであるが、家族思いの一面があったことも忘れてはならない。
以上、本書全8章中、最初の4章を読んだことになる。ちょうど中間点である。日を改めて後半4章を読むことにする。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

