6月17日:ミステリバカにクスリなし~『呪い』

6月17日(水):ミステリバカにクスリなし~『呪い』 

 

 アーロン・エルキンズの『呪い』を読む。1989年の作品で翌年1990年に翻訳が出版された。その当時に購入した本だ。黄金時代のミステリが好きだとは言え、多少は新しいものも読もうという気持ちになっていた時代に買った本だ。 

 当時はサイコミステリが隆盛だった。心理学などをやってながら、僕はどうもサイコミステリには食指が動かされない。なんとなく好かんのだな。だから最新の作品を読もうとしても自ずと選べる作品が限られてくる。そんな中で本書を選んだのだ。僕の記憶では書評などでは割といい評価がされていて、そのことも本書を選んだ一因となっている。 

 とは言え、恥を忍んで言うと、そういういきさつで買ったにも関わらず、実は未読のままだったという一冊だ。読もうという気持ちはあったものの、他の本を優先したりしているうちに、僕の興味も薄れ、そのまま放置されることになってしまったのだ。 

 買ってから30年以上も未読のままというのはいささかカッコ悪い。ともかく、今回は読んでみようと思った。後にギデオン・オリヴァー教授ものはドラマ化されたりしていて、けっこう人気シリーズであるらしい。それなら本書もきっと面白いだろう。そんな期待もこめながら、読んでみて、未読記録更新に終わりを告げよう。 

 

 物語は考古学・人類学者ギデオン・オリヴァー教授の研究室で始まる。学課の休暇時期で、キャンパスはほぼ無人。ギデオンは論文に取り掛かろうとするが、妻のジュリーに首ったけ。逢引きの最中、ギデオンの恩師エイブ・ゴールドスタインから電話が入る。ユカタン半島に来て発掘調査に加わらないかというお誘いの電話である。退屈な論文仕事から解放される救いの神とばかりにギデオンは承諾する。かくしてギデオンとジュリーはユカタンへ飛ぶ。 

 ユカタンのこの遺跡はギデオンにとって苦い思い出があった。数年前にハワード・ベネットをリーダーとする調査団に加わったのだ。そこで貴重な絵文書が発見されたのだが、ハワードはそれを盗んで姿をくらましたのだ。 

 ギデオンにとってそんな因縁のある遺跡へ再び足を踏み入れることになった。エイブを初め、ギデオンの弟子で前回の調査にも参加していたハーヴィにワージーもいた。調査団には、素人や非専門家も参加しており、童話作家ワージー以外にも、不動産業のレオ・ローズ、通販業者のプレストンとエマのバイヤーズ夫妻がいた。 

 ユカタンに到着したギデオンたちを迎えたのはワージーだったが、彼は今回の遺跡は呪われていると言う。既に調査団以外の人間が侵入し盗掘しようとした疑いがあるともいう。 

 

 今回の遺跡調査で人骨とともに小冊子が発見されている。その小冊子には呪いが叙述されているという。その呪いとは、 

 「この地を荒らす者には以下の呪いがかけられる。 

 1・吸血キンカジューが彼らの中に放たれるだろう。 

 2・暗黒が割れて光となり、魂は激しく打擲される。 

 3・トゥクムバラム神が彼らのはらわたを火と血の川に変える。 

 4・セコトカヴァチ神が彼らの頭蓋骨を貫き、その脳みそを地にばらまく。 

 5・人間を石に変える獣が彼らの中に来る。 

 これらは初めの苦しみに過ぎず、シバルバーの神々によって、彼らは目をえぐられ、首をはねられ、神経をすりつぶされ、死に至るまで拷問される」 

 というものであった。 

 

 神秘学に傾倒しているエマはこの呪いを真剣に考え、それがギデオンを悩ましたりするのであるが、物語はこの呪いに沿って進んでいくことになる。ギデオンは何者かによる脅迫状を受け取り、さらには暴漢に襲われ命を狙われる。 

 そうして、物語の中盤にさしかかって、ついに殺人事件が発生する。被害者は今回の遺跡発掘調査に関してゴシップ記事を書こうという記者であった。ギデオンが襲われるくらいなので、さすがに主人公が殺されるとは思わないけれど、調査団の誰かが殺されるのだろうと僕は思っていた。調査団にとって、というか物語にとって、さほど重要でもなさそうな人物が殺されるなんて、意表を突かれる感じがあり、その意外性が面白いと感じた。 

 物語は徐々に面白くなってくる。殺人事件が起きてからはさらに面白さが倍増した感じだ。さらに、以前のハワード・ベネットが発掘した遺跡から新たな死体が発見されるに及んで、ここにきてさらに謎を投げかけるのかと、非常に贅沢な感嘆を覚えた。 

 

 さて、推理小説はあまりネタバレするようなことは書かないようにしないといけない。そういう暗黙のルールがあるので、それに従おう。 

 このトリックというか、プロットは非常によくできていると思う。その謎解きは黄金時代の推理小説の雰囲気があって非常によろしい。つまり、ある意味ではオーソドックスな推理小説でもあるということだ。このオーソドックスさが僕にはいい。90年代には、僕の個人的印象では、こういうオーソドックスな謎解きが見られなくなりつつあったように思うからだ。古い推理小説が好きだという人でも愉しめる作品だと思う。 

 賞賛ばかりしてるけれど、難点もないわけではない。古文書から解読された呪いが、象徴的な形であれ、順次実現していくことも興味を掻き立てるのだけれど、その必然性というものがあまり感じられなかった。ひょっとしたら僕の読み落としとかがあるのかもしれないけれど、犯人がその呪いを利用する必然的な動機が希薄だったように思う。 

 細かいところを見ていけば、何かとマイナス点も見つかるかもしれないけど、それはどんな名作だって同じこと。細かいところを気にしなければ本書は十分に面白い。 

 

 僕の唯我独断的読書評は4つ星半だ。思っていたより面白かったし、当時、高評価を得られていたのも頷ける。でも、ギデオン教授シリーズをもっと読みたくなったかというと、そうでもない。そこまでファンにはならなかったな。この一作で十分という気がしている。 

 

<テキスト> 

『呪い』(Curse)アーロン・エルキンズ 

早川文庫 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

 

 

 

 

 

関連記事

PAGE TOP