6月14日(日):心の健康は大事だ
深夜勤務終わって、朝、一緒に勤務した人と少し立ち話をした。その時にU婆は辞めることになるだろうと聞いた。やはりそうかと僕は思った。
U婆というのは、僕がそう呼んでいるだけなんだけれど、70歳の婆さんで、名前のイニシャルのUを付けているのだ。この婆さん、とかく仕事をしないことでみんなから不評を買い、客からの評判も悪く、スタッフ内でもまあまあな問題人物である。その辺りのことは後で述べよう。
このU婆、商品パッケージの破損をよく発見するのである。商品の袋が破れていたとか、箱が破損していたとか、蓋が空いていたとかそういうのを発見するのである。いつごろからか、僕はそれが怪しいと思うようになっていた。
商品パッケージの破損というのは生じるものである。ただ、そんなに頻繁に発生するものでもない。僕も今のローソンに3年いるけれど、その間に2,3個そういうのを発見したことがある。平均して一年に一個くらいの割合になる。他のスタッフにも僕は尋ねてみたことがあるが、その人も同じようなことを言っていた。要するに、パッケージの破損を見つけることはあるけれど、そんなに頻繁に見つけることはないということだ。
僕が怪しむのも分かってもらえるかな。U婆がそんなに頻繁に見つけるのが不自然だし、U婆だけがそれを発見するというのもおかしな話である。もっと言えば、仕事をする人が商品陳列や品出しの際に発見するのは頷けるのだけれど、仕事をしない婆さんがそれを見つけるというのが、尚一層不自然に僕には思えるのだ。
だから、U婆が破損を見つけているのではなく、U婆自身が破損させているのだと僕は疑うようになった。自ら破損させて、自分がそれを見つけたと言ってるわけだ。そして、そのことを連絡ノートに書くのである。
連絡ノートにそのことが記載されている時、現物があれば僕は現物も見ることにする。その時間のU婆のシフトも見る。絶対確実とまでは言えないけれど、誰かと一緒にシフトに入っている時に見つけていることが多いようだ。つまり、U婆がワンオペの日には見つけないわけだ。そして、勤務時間の遅い時間帯に見つけていることが多いようである。つまり、8時間勤務だとすれば、勤務開始から5時間とか6時間とか経過したころに発見しているというわけだ。
僕の中ではU婆が怪しく思われている。商品を自ら破損させているとしか思えないのだけれど、その確証もなければ、U婆がそれをする理由や目的も分からない。先月、5月4日に僕はその確証を得た。その日、U婆が何をやっているのかが僕に分かったのだ。
5月4日は月曜日だった。僕は21時からの勤務だった。21時過ぎに冷食の入荷があるのだけれど、月曜日は新商品が入ってくる日なので、売り場の場所を空けなければならない。
21時に店に行くと、U婆が事務所で座っていたのだ。店内には若い女の子のスタッフ一人が働いていた。何をしているのか訊くようなことはしない。面倒だからだ。U婆を無視して、若い女の子と交代して、僕はアイスクリーム売り場の場所つくりを始める。正直言って、その間、U婆はレジに立っていてくれたらいいのである。僕にその作業を専念させてくれたらいいのである。
僕が商品を動かしている。するとU婆が「これ蓋が開いてる」といって見せてくれた。僕は平静を装って「ああ、それはもうダメだね」と言った。僕は確信している。その少し前に僕はその商品を動かしたのだ。その時は蓋は開いていなかった。破損していなかったのだ。小さな破損なら僕が見落とした可能性もあるだろうけれど、そんなにパックリ開いていたら僕だって気づいたはずだ。
次にU婆は何をしたか。「このこと、ノートに書いてくる」と言って事務所に入っていったのだ。「ははあ、これが目的か」と僕はようやくその意図が分かった。ノートに書くという口実で職務から逃れようとする意図だったのだな。
結局、僕は一人でレジをしながら冷食の納品を片付けなければならなかった。もっと言えば、21時までに済ませる仕事が済んでいなかったので、一層、僕の負担が大きくなった。21時過ぎに入荷した冷食がすべて完了したのは23時を過ぎていた。当初の僕の計画では21時半に終了するはずだったのに。
それはともかくとして、僕はU婆の不正を確信した。その日の勤務終了後、つまり5月5日の朝にオーナーに報告しようと思った。しかし、この時は少しだけ躊躇する。というのは、僕の確信だけで確固とした証拠がないからである。後から振り返ると、ここで躊躇したことを僕は後悔している。というのは、その週末に別店舗でU婆が同じことをやらかしたからである。
翌週、店長の一人と話をする機会があり、その際にU婆のことが話題に上がったのだ。その時に僕は僕の疑惑を話したのだ。店長はこの件をミーティングで伝えると言う。僕が提案したのは、U婆が不正を働いているのだとすれば、その証拠をつかんでほしいということだけだった。
それからこの話がどうなったのか知らないが、5月の後半からシフト表にU婆の名前が消えたのだ。やはり不正は本当にあったのだろうか。でも、僕はもう事実を知ろうという気がない、知ってしまうとU婆に対する憤りが頂点に達しそうだからだ。
ところでU婆のやってることっていうのは僕には馴染みのあることである。例えば学校に行きたくないっていう子供がいるとしよう。この子が熱があるから今日は学校に行かないと言ったとしよう。母親は熱を測らせるだろう。熱を測っても平熱だ。子供はどうするか、体温計を湯の中に突っ込んだりする。それで、ほら、こんなに熱があるなどと母親に言うわけだ。それと同じことをU婆はやってるのだ。
これは、要するに、自分がやりたくないと思うことに関しては、どんな手段を使ってでもそれをしないで済む方向に持っていくということだ。どんな手を使ってでも回避してみせるってわけで、病的な人には顕著に見られる傾向である。
U婆について書くのも面倒になってきたのでここまでにしよう。とにかく、心の健康って大事だなと改めて思う次第だ。一人病んでる人がいると周囲が大いに迷惑を蒙るものだと思う。その人がいるというだけで全体の生産性が下落するし、クチコミで辛辣に書かれると店の評判も下がるというものだ。それだけでなく、当人も周囲から嫌われるようになるのだ。そうして孤立し、孤立がまた病理を進行させてしまう、そんな悪循環も生まれる。
僕もそれほど心的に健康とは言えないと自覚している。U婆の疑惑も僕の妄想かもしれないと思うこともあった。でも、僕はまだましな方だ。ドングリの背比べのようだけど、少なくとも、僕はU婆ほど人から嫌われてはおらん。そこまで僕の心が不健康ではないことを自分では確信している。
尚、このU婆のことは今後も綴るかもしれない。職場とかグループ内に一人でもそういう病を抱える人(ハッキリ言って人格障害圏から精神病圏の人で、尚且つ、周囲を悩ますタイプの人)がいると、周囲がどういう目に遭うかを僕なりに言語化して、理解しておきたいと思うからだ。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

