9月12日:ミステリバカにクスリなし~『サスペンス・マガジン65年7月号』(2) 

9月12日(金):ミステリバカにクスリなし~『サスペンス・マガジン65年7月号』(2) 

 

 久保書店刊行の『サスペンス・マガジン1965年7月号後半読んでいこう 

 

 

10「ペイパーバックご案内」(松井六郎) 

 アメリカのペーパーバック出版社の紹介、並びに、ペーパーバック小説8作品を抜粋と表紙と共に紹介。表紙を見ているだけでも楽しい。抜粋は、そこだけ読むと面白そうに思えるんだけど、きっと全体としては大したことないんだろうな。 

 

 

11「贄(にえ)」(八巻令) 

 私立女子高の荻原先生は某商社から上条美保子の学業・素行の問い合わせを受ける。その頃、夏休みに入ったばかりの美保子はプールで、その美貌と肢体でひときわ人目を引き寄せていたところ、出版社のカメラマンから写真撮影される。美保子の写真と調書を前にして、一人の老人が満悦している。「これなら500万の値打ちはある」と老人は呟く。 

 老人に雇われた若い探偵はその後も美保子の身辺調査をするが、やがて探偵は美保子の魅力に魅せられてしまう。 

 オチを言えば、美保子の父親が経営している会社は危機に陥っており、老人が融資することになっている。美保子はその担保というわけだ。しかし、老人は悪質な高利貸しということだから、おそらく美保子が身を張っても父親を救えないだろう。一方の探偵は美保子を救おうと老人と対決するが、敗北を喫する。愛などよりも金の有る奴が強いのだ。もし、本作にエロ要素がなければそれなりの悪漢小説となっていたかもしれない。 

 

 

12「餌」(杉秀作) 

 女性のためのトルコ風呂を発案し、運営する本田妙子に奴隷のように使われている「ぼく」。セールスのバイトをしていた時に妙子と縁ができ、そのまま妙子の下で働くことになったのだ。妙子のアイデアはヒットし、多くの客が訪れるようになった。ある時、常連客である月村千代が「ぼく」をそそのかしてきて 

 こういうのはマゾっけのある人にとっては面白いと思うのだろうな。結局、前の主人から今の主人に変わるだけで、奴隷のような身分は変わらないってことだ。 

 

 

13「『緑の館』という名の秘密クラブ」(草田一夫) 

 秘密クラブに入会した著者の実体験ということになっている。ある日、いきなり著者の元へ勧誘状が届く。「緑の館」と称する秘密クラブで、男女の交際を斡旋するクラブであるそうだ。規則を厳守することを条件に、著者は入会する。そして一人の女性と会うことができた。会員番号961番の女性だった。この女性の夢はSMバーを開くことだと言う。 

 その後、クラブは消失したとのこと。「緑の館」のあった建物には別の団体が間借している。会員961番とも連絡取れずとのことである。なんともミステリだ。 

 でも、こんなの「赤毛連盟」に先例がある。クラブがなくなったのは目的を達成したからかもしれない。会員961番はSMバーを開いたか、いい出資者を獲得したかしたのではないか。そうしてクラブを維持する必然性がなくなったのではないだろうか。僕がこんな推理をする必然性はもっとないんだけれど。 

 

 

14「さすぺんす・すくりーん」(青戸八郎) 

 これはミステリ映画評のコーナー。 

 外国映画は、まず「ギロチンの二人」。ヘンリー・スレッサ―の原作であるそうだが、映画の方はいささか支離滅裂であるようだ。「指令7で5人消せ!」はピンからキリまである007もどき映画のキリの方に属する作品と評されている。「サタンバグ」は細菌兵器の奪い合いを描いたジョン・スタージェス監督作品で面白そう。「ベルリンからの脱走列車」もよくできたシリアスな作品のようで観てみたい。 

 日本映画では、実話に基づいた「証人の椅子」「にっぽん泥棒物語」が紹介されている。前者はシリアスな作品で、後者はいささかコミカルな作品となっているようだ。「霧の旗」は松本清張原作の非常に社会的な内容であり、ちょっと観てみたい気持ちになった。 

 

 

15「調教」(水尾究) 

 兄はれっきとした社会人であるが、その弟は精薄児。兄は弟に適職を見つけてやる。弟を箕輪祥子の館に奴隷として送り込み、調教を受けさせることにしたのだ 

 この兄と弟が実は同一人物で、弟の調教を軸に、兄と祥子とのやりとり、駆け引きが描かれている。 

 

 

16「一匹狼」(藤木仙治) 

 拉致され、一室に連れ込まれた千絵子。千絵子の前に現れたのは哲夫だった。千絵子は哲夫姿を見て驚愕する。「生きていたのね」 

 連載作品。それまでのあらすじも記載されてないので、誰が誰なのか、どういういきさつがあったのか、まったく不明だ。物語の途中のワンシーンだけ読むことになったので、これだけではなんとも評価できない。 

 

 

17「にごり雨」(須賀敏) 

 こんなだと夜の稼業もできやしない、女でもいてくれないとやりきれない。一人くさっている素走りの秀。夜道を歩く女の姿を認めるや、秀は声をかけようとしたが、先客があった。先ほどから彼女の後をつけていた二人組に先を越されてしまう。町方の二人は、女が小判を隠し持っていたことから、世間を騒がしているむじな小僧とつながりがあると睨み、女に拷問をかける。 

 むじな小僧とは、ねずみ小僧亡き後、その志を継いで富裕層から盗み、貧困層に配るという義賊という設定である。ここには叙述による引っ掛けがある。「小僧」などと言われると、読者はついつい男をイメージしてしまうことだろう。しかも素走りの秀などというそれっぽいキャラが最初に登場するのだから、ついつい引っかかってしまいそうになる。僕はその手には乗らなかったけどね。 

 

 

18「トロイの女奴隷」(南郷京助) 

 トロイ戦争の時代。ギリシャ軍のネオプトモレスに父母を殺され、奴隷として連れ去られた美女アフロディテはネオプトモレス暗殺に失敗してしまう。ネオプトモレスはアフロディテにさなざまな責め苦を加えていく。ネオプトモレスによって身籠ったアフロディテは牢獄の中で出産する。苦しめられながらも彼女は我が子を育てる。この子だけが彼女の命の拠り所となる 

 これも連載作品。長編小説の一部だけなので、この後どのような展開になるかもしれず、この一部分だけで評価することもできない。シチュエーションは面白そうなんだけれど、嗜虐・加虐趣味が濃すぎて僕の好みではない。 

 

 

 以上、「サスペンス・マガジン1965年7月号」を通読したことになる。誌名からミステリ系の雑誌かと思いきや、いわゆる問題小説とか異端小説などに括られるような作品が占めている。 

 サスペンスとマガジンの頭文字を取ってSMと略されていたりするが、それとサド・マゾのSMがかけあわされている。それで内容もSM趣味的なのが多いわけだ。本誌にサスペンスフルなミステリ作品を期待すると、間違いなく、期待外れに終わる。 

 嗜虐・加虐趣味が合わないことを別にしても、面白いと思える作品が少ない。いくつか連載ものもあり、そういうのは評価しようがないとしても、読み切り短篇でもこれといった作品がない。読むに耐えられるのは「暴君ネロ」と「贄」「にごり雨」くらいなものだ。書評と映画評の方が、小説よりも、はるかにマシという一冊だった。 

 今後、古書店などで本誌を見かけたらどうするだろうか。100円でたたき売りされているのだったら買ってもいいかな。それも書評や映画評目当てに買うことになりそうだ。100円以上の値段がついていたら、まず買わないだろうな。 

 

 僕の唯我独断的評価は2つ星だ。 

 

<テキスト> 

「サスペンス・マガジン」(1965年7月号) 

久保書店 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

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