8月5日(火):ミステリバカにクスリなし~『寝室には窓がある』
本書の著者A・A・フェアはE・S・ガードナーの別名である。ガードナー名義ではペリイ・メイスンその他のシリーズキャラクターがあるが、フェア名義ではバーサ&ラムの探偵コンビシリーズを書いている。
バーサ・クールが探偵社の所長で、ドナルド・ラムはその部下の探偵という間柄である。バーサは金にがめつい大女で、ラム君は女にめっぽう弱く、何かにつけてバーサからはそれをなじられる始末。
本書でも、ラム君にニッコリ微笑みかけた美女につられてバーに誘われ、その後、モーテルまで一緒に行って、ラム君はえらい目に遭ってしまう。そのモーテルで心中自殺が起きたのだ。おまけにラム君に微笑みかけた美女ルシル・ハートも姿をくらました。巻き込まれるのを避けるためにその場をどうにか逃げ出したラム君だが、警察からは睨まれることになってしまう。
ラム君はトム・ダーラムという男を調査していたのだった。その最中にルシルが現れたのだ。一体、誰がこの調査の依頼人なのか。ラム君が問いただすと、クレア・ブッシュネルという娘がその依頼人だとバーサは言う。クレアの叔母エメリア・ジャスパーは裕福な未亡人であるが、最近、トム・ダーラムが頻繁にエメリアに会いに来るという。クレアはトムが何か悪い企みをもって叔母に近づいているのではないかと疑っている。
一方、モーテルでの心中事件は株式仲買人のドーヴァー・フルトンと彼のかつての秘書ミネルヴァ・カールトンの二人だったことが明らかとなる。二人とも妻があり、夫がある身であった。
さらに第三の事件が発生する。やっとルシルの居場所を突き止めたラム君。しかし、その直後にルシルが殺されてしまい、ラム君がその容疑者とされてしまう。無実の罪を晴らすべく、真相を究明しに奔走することになる。
いや、それだけでなく、ラム君は命まで狙われる羽目に。襲撃者から追われ、命からがら逃げ伸びることができたのだが、こうした場面でのアクションもツボを押さえている。
他の作品でもそうなのだが、ガードナーは凝ったプロットを作る。本作も上述の3つの事件(エメリアの交通事故も含めると4つになるかも)が絡まりあって、一つの図となっていくくだりは名人芸の域だと思う。ひねりにひねって、練りに練ったプロットで読ませる一作となっている。ただし、それだけに登場人物たちの相関も複雑になってくる。
一つの山場は心中事件の解明である。被害者は二人。ピストルは3発撃たれている。1発はスーツケースに命中している。弾倉は4発分が空になっている。撃たれたのは3発か4発か、どうしてスーツケースに弾が当たっているのか、弾が貫通している服はどうして無造作にスーツケースに詰め込まれていたのか、その辺りの謎解き過程が面白い。
さて、ぺリイ・メイスンでもそうなんだけれど、本作も主人公がアクティブに活動する。エネルギッシュでバイタリティ溢れる活躍が爽快である。苦境に立たされても屈せず、キレのある推理を働かせ、活動に無駄がなく、解決までストレートに突き進んでいく姿は読んでいて感銘を受けるほどだ。そうした主人公の魅力も印象的である。
僕の言う主人公というのはラム君のことだが、もう一人の主役バーサも負けてはいない。金にがめつく、そこが憎らしくもあり、作品にユーモアをもたらしてくれているのであるが、ラム君とのコンビネーションも抜群で、ラストで真犯人から脅された時の立ち回りも印象に残る。とてもユニークなキャラという気がしている。
ともあれ、良質のミステリを読んだという満足感が残る。
ガードナーの作品は、傑作とか名作とかいうのはあまり聞かないが、ハズレに当たることが少ない。どの作品も一定の水準は備えていて、それなりに楽しめる。何か面白いミステリをと思った時、無難な選択をするとすれば、僕の場合、ガードナーになる。ともかく、安心して読める。
本書の唯我独断的読書評は4つ星だ。
<テキスト>
『寝室には窓がある』(Bedroom Have Windows)
A・A・フェア著(1949年)
田中小実昌 訳
ハヤカワミステリ文庫
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)